井上 雄彦 集英社全巻セット スラムダンク ゼンカンセット イノウエタケヒコ 発行年月:2018年10月 予約締切日:2018年08月29日 サイズ:コミック ISBN:2100011141261 本 セット本 コミックセット。
言わずと知れた『SLAM DUNK』の主人公・桜木花道である の記事
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それでも、私が良い映画…というか良い創作物の条件だと考えているものが2つある。それは「見たことのない何かを見せてくれること」、そして「他者への想像力を拡張してくれること」だ。本作は獰猛なまでに大胆なアニメ表現によって前者を、深みのあるリョータの物語によって後者を満たしてくれた。この基準から言えば『THE FIRST SLAM DUNK』は、紛れもない傑作と言わざるを得ない。
だが『THE FIRST SLAM DUNK』本編の3Dアニメ表現には、端的に言って驚かされた。まず冒頭からガッと引き込まれる。大きな海が眼前に広がる沖縄のバスケコートで、2人の男の子(その正体は後述する)がバスケに興じている。予告編でもチラリと見えた、なんてことない光景のはずだが、劇場で本編を見ると直感的に「まるで現実のようだ」と感じた。よく考えるとこれは不思議なことだ。ビジュアル的な意味でのCGのクオリティ自体は必ずしも最高峰ではなく、パッと見で「CGだな」とわかるレベルで、たとえばPS5の最新ゲームのような「実写に見紛うほどの美麗なCG」とかではないのだから。なのになぜ「現実のようだ」とまで感じたのだろう。
アニメ好きの人はちょっと考えてみてほしいが、本作のリョータのような、スポーツが好きで雰囲気は少々チャラいが、実は家庭の背景など様々な苦悩や鬱屈も抱えている…という、そのへんのストリートにいそうなリアリティある"普通の若者"が、近年の日本のアニメで「主人公」として描かれたことがどれほどあるだろうか…? いやちゃんと探せばあるのだろうが(書いてて『サイバーパンク:エッジランナーズ』とかはわりと当てはまるかなと思った)、それはともかく、リョータのような人物が深い解像度とリアリティ、そしてシンパシーを伴って主人公を務めているというだけでも、『THE FIRST SLAM DUNK』は相当フレッシュな作品に感じられた。
両作品は、アニメ世界に異質な現実感を持ち込んだ作品であること、監督がアニメ畑の作家ではないことが共通している。ただし『花とアリス殺人事件』は全編ロトスコープなので、モーションキャプチャーの方法論をベースにしつつも、同時に漫画/アニメ的なダイナミズムを大胆に織り交ぜた『THE FIRST SLAM DUNK』とはやはり全く異なると言えるが…。
『THE FIRST SLAM DUNK』のリアリズムにおいて、「動き」と同じくらい重要なのは「声」だ。動きにあわせて、声の演技もいわゆる「アニメ的」な抑揚を程よく抑えた、リアリティの高い演技になっている。本作は昔のアニメ版から声優を変更した件で炎上気味になったようだが、ここまでアニメーションの手法が抜本的に新しくなってしまえば、そりゃ声優だって変更するしかないだろうと思う。往年の2Dアニメにマッチするタイプの、フィクショナルな演技では確実に浮いていたはずだ。
また、『SLAM DUNK』新装再編版全20巻を購入した方には全巻購入特典として、応募者全員を対象にした本企画のために製作される「県大会“決戦前夜”特大ポスター」をもれなくプレゼント!
『SLAM DUNK』新装再編版では、既刊のジャンプコミックス全31巻を”試合の決着”など物語の節目ごとに巻を区切り直して全20巻に。そして、その20巻すべてのカバーで作者・井上雄彦(いのうえ・たけひこ)氏が新作イラストを描き下ろします。
だが、そんなリョータを中心に再構成された本作を観て、改めて気づくことがある。『SLAM DUNK』があまりに有名な作品であり、そしてリョータ自身も人気のキャラであるゆえに、『THE FIRST SLAM DUNK』を語る上でも意外と見落とされそうなポイントだ。それは宮城リョータのようなキャラクターが、日本のアニメ作品で「主人公」として正面から深く描かれるのは意外なほど珍しいということである。
こうしたアニメ表現の革新性に匹敵するほど、『THE FIRST SLAM DUNK』を観て素晴らしいと感じたポイントがある。それは宮城リョータにまつわるエピソードだ。
この「ドライさ」も感じるアニメ手法によって、逆に強烈な存在感を獲得したキャラクターがいる。言わずと知れた『SLAM DUNK』の主人公・桜木花道である。全体的にはリアリティが高い、まるで本物の試合のような雰囲気であるからこそ、ド素人だが天才的なセンスをもつ桜木の破天荒な行動が、良い意味で「悪目立ち」するのだ。ダブルドリブルの場面の可笑しさったらないし、机の上に立って観客を煽りまくるシーンでは「マジでやべーやつがいるよ…」と客席の心情とリンクした。
その結晶としての『THE FIRST SLAM DUNK』は、「しんどい人生に抗うためにスポーツに打ち込む若者」に向けた力強いエールのようにも受け止められる。かつてスラダンの読者だった元スポーツ好きや、リアルタイムでスポーツに打ち込む、悩みや鬱屈や喪失を抱えた若い人々は、本作のリョータたちの物語を見て、どこか深い部分で慰められ、励まされるのではないだろうか。井上雄彦氏が『SLAM DUNK』を今リメイクした背景には、エンタメにおける共感の網からこぼれ落ちてきた「他者」たちをすくい上げたい、という現実世界に広く開かれた意志があったのだと思う。その意志が、アニメ表現において「リアル=現実」を強く志向した姿勢とも深く共鳴しているのは、まさに必然だろう。
「週刊少年ジャンプ」で連載されるや読者から圧倒的な支持を受け、同誌が前人未到の最大発行部数653万部を達成。1995年新年3・4合併号では全ページフルカラーで巻頭を飾った、ジャンプを代表する国民的漫画『SLAM DUNK』(スラムダンク)。
同じくCGを使ったアニメであっても、たとえばディズニー/ピクサー/ドリームワークスのような海外アニメ映画の主流とも、『THE FIRST SLAM DUNK』は全く異なっている。あえて海外から挙げるなら、今年見た素晴らしい中国アニメ『雄獅少年』が、高いリアリズムと(後述するが)逆境の中で生きる若者へのシンパシーという点で、通じるところが多いと言えそうだ。
実際、『THE FIRST SLAM DUNK』のような発想で作られた、近年の日本・海外のアニメ映画は(特にこうした大作エンタメでは)全く思いつかない。あえて国内で1本、近い種類の驚きを感じた近年のアニメ映画をあげるなら、岩井俊二が監督を務めた『花とアリス殺人事件』だろうか…。
リョータは、実質的な本作の「主人公」と言っていい。先述した「冒頭でバスケに興じている2人の男の子」とは、宮城リョータと兄のソータだったのだ。本作は、原作漫画では描かれることのなかった、実はリョータが内心で抱えていた葛藤を描写していく。いわば壮大な「後づけ」と言えばそれまでだが、まさにこの点こそが『SLAM DUNK』を今リメイクする必然性だと思えるほど、個人的には心打たれた。
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